私がまだ学生だった頃の出来事です。

当時、三上博史さんが主演した「それが答えだ!」というドラマが有りました。

三上さんが新進気鋭の指揮者の役だったのですが、指揮者の話でしたので、撮影にはオーケストラが必要で、ドラマの中の帝国フィルと言う架空のオケは、N本フィルが担当しました。

そして、このドラマの撮影の時、私もNフィルのエキストラとして、ドラマの中で弾いていました。

オーケストラの場合は、練習開始時間の一時間前に到着していなければいけないので、常に時間に余裕を持って行動しているのですが、撮影の日、私はかなり早く到着、確か2番のり位だったと思います。(注釈:オケの世界では時間通りに到着は遅刻になります。例えば13時からリハーサルの場合、交通機関の遅れ等も見越し、12時には到着し、楽器を出し、指慣らし等調整し、13時音だし開始となります。プロ野球なんかでも18時試合開始の所に選手が18時に来たら話にならないですよね。遅刻は絶対に許されない世界、オケ業界の話でした。)

「さ、しっかり練習しているように見えるように振舞わねば!!」と舞台袖で楽器を出し、オケの席に着席すると、指揮台で一生懸命に手を振り回し、指揮の練習している小柄の男の人がいたのですが、それが三上博史氏でした。

テレビを持っていないワタクシ、恥ずかしながら三上氏の事を全く存知あげてなく、第一印象としては、ずいぶん小柄な人だな・・・でした。(失礼)

テレビの撮影と言う、普通とは違う仕事だからか、はたまた物凄く拘束時間の長い仕事だったせいか、Nフィルの方の集まりは通常より遅く、ステージ上では三上氏が指揮台の上で一生懸命腕を振り回し、楽器を持っている人は私を含め2人という、何とも奇妙な光景が続いていました。

有名人大好きなミーハーなワタクシ、サイン欲し~とか思ったんですが、真剣に練習している様に、お声掛けも出来ず、かと言って練習をガン見する訳にもいかず、チラチラと見ながら、時折目が合いながら、その日撮影で弾くマーラーをさらっていました。

そして時間となり、オケのインペク、マネージャーさんから話があり、三上さんの紹介が有り、では実際に弾いてみましょう、と言う事になり、まず最初は指揮の先生のお手本で演奏、マーラーの巨人のフィナーレの部分を弾きました。

続いて、三上氏の番。

先生の演奏を間近で見、「迫力が違いますね~」などと言い、指揮台に上る前は「出来るかな~、緊張すするよ~」などと言っていた三上氏、指揮台に挙がった瞬間に役者魂に火が付いたのか、イメージとしては「ガラスの仮面」で眼が白目になってピカーっと光っている感じで、パッと手をあげまして・・・振り始めました!!

・・・が・・・相当練習してきたのは良く伝わって来たのですが、やはり・・・オケの手綱を握る所まではいかず、ほどなく進んだ所でオケは崩壊し、演奏不能になってしまいました。。。

すると・・・三上氏「やっぱり無理だよ~、オレに指揮なんて出来っこないよ~・・・」と、大粒の涙を流しながら舞台袖に走っていき、男泣きをしていたのです。

指揮の先生が側で「大丈夫だよ、初めて指揮するのにここまで出来るなんて逆にすごいよ」と一生懸命に慰めている声がステージ上に良く響き渡るほど、オケはシ~ンと静まり返っていました。

その静けさは「三上さん本気だ!本当に勉強してきたんだ!!真剣にオケを指揮しようと思っている!!!」という、「ガラスの仮面」で言うと、「やっぱり天才だわ、あの子」と言って、眼が白目になって光っている亜弓さん状態でした。

そこから先、コンサートマスターのIさんなどが一生懸命「そこの所でもっと強く振って欲しい」等、現場でしか味わえない贅沢な指揮のレッスン付きで撮影は進み、三上氏はそういった要望を嬉しそうに「はい!!こうですか??こうですか??」と一生懸命に聞いてらして、私などは三上氏がセリフを噛んだ時に「NG大賞NG大賞!!」などと言ったりしながら、ドラマ初回分の撮影は終わりました。

で、後日談。

私の高校の同級生に、三上さんの大ファンの子(女性)がいて、私がこのドラマのオケの中で弾いていた事をすごく羨ましがっていた友人がいました。 

彼女にこの撮影の時の話、三上氏がすごく真剣に指揮を勉強していた事、その涙に私自身とても感動し、役に打ち込む真摯な姿勢に、思わず紫のバラを贈りはしませんでしたが、心の琴線に触れたた事などを話していたのですが、彼女が購入したこのドラマのサウンドトラックの解説書の中に合った撮影秘話を聞かされたのですが・・・それによると・・・以下、うる覚えですが・・・

三上氏、このドラマの話が決まり、指揮者の役を与えられてから撮影の日まで、一生懸命指揮の練習をし、そして撮影の日に、コンサートマスターのIさんに挨拶に行ったそうなんです。

三上氏「ご迷惑をおかけしますが、一生懸命やらせてもらいますので、よろしくお願いします」

Iさん「演奏はこっちの方できちんとやりますので、どうぞオケは気にせず、好きになさって下さい。」

と言われ、非常に悔しかったそうなんです。

自分は素人だけど、この役が決まって以降、指揮の練習、このドラマで使う曲を誰よりも一生懸命練習してきた、と。。。

そして、実際に初めて指揮をする時を迎えた訳ですが・・・

「オーケストラの前で指揮を始め、最初は順調に演奏が続いたが、曲が三上が不安に思っていた所に差し掛かったあたりからオケが乱れ始め、そして遂にはぐちゃぐちゃになってしまい、演奏が止まってしまった。その瞬間、Iさんは演奏は自分たちでやりますから、と言っていたけど、少しは自分の指揮を見てくれていたんだ、自分の指揮に合わせて弾いてくれていたんだ、今このオーケストラの音は自分が出した音なんだ、これは自分の音なんだ、と感じた瞬間、嬉しくて涙が溢れていた。」

。。。。。。。。。。

時折、楽器を修理に出すと、ニカワの臭いが付いて楽器が戻って来るのですが、ニカワの匂いを嗅ぐ度に、私は初めて楽器を買ってもらった時の喜びを思い出します。

そして、毎日当たり前のように楽器を出し、当たり前の様に調弦をし、弾いていますが、初めて楽器を買ってもらった時の感動、喜びを思い出すたびに、三上氏が初めてオケの音を出した時の彼の嬉し涙を思い出します。

毎日、当たり前のように出している自分の音の出し方を教えて下さった先生に感謝しながら、もっともっと磨かねば、と思いながら、そして、毎日音を出せる事に感謝をしながら。




↓この動画の最初のシーンで弾いてました。テレビ持ってなかったので、ドラマは結局見れなかったのですが、懐かしいですね。チャンスが有ったら全部見てみたいです。

海外で ”神が宿った”と評された世界的なマエストロ、鳴瀬望はコンサート中にオーケストラのメンバーから演奏をボイコットされ、その責任を問われて解雇されてしまった。そして今は山小屋にこもっている。時折マネージャーの樫尾と酒屋の出前が訪ねてくるくらいで他に訪れる人もない。一年以上も仕事がない。
酒屋の出前(池田邦男)は、地元の中学教師(体育)。突然オーケストラ部顧問の任についたが、音楽のことはさっぱり分からない。ピアノが壊れていることに気づいた池田は鳴瀬を楽器屋と勘違いし、修理を頼みに行く。一旦は断る鳴瀬だったが、学校に出向き修理する。試しに弾いた曲に学校中の人々が魅了されてしまった。
池田の再三にわたる ”子供たちに音楽を教えてください!”という熱烈な依頼を断り続ける鳴瀬。マネージャーの樫尾が仕事を持ってきた。喜びもつかの間、その仕事は”子供たちに音楽を教えること”。憤る鳴瀬だったが、その日の食事にも事欠く有様となったうえ、楽団への多額の借金返済のため受けざるを得ない状況に。”神が宿った世界的なマエストロ”が、その日の食事と借金返済のために田舎の中学校のたった12名のオーケストラ部でタクトを振ることになってしまった。
自分から辞めれば違約金を払わねばならない。だが先方から辞めて欲しいといわれれば払う必要はない。ならばそのように。出来るだけ早い時期にそうなるように。もともとの性格もあるが、辞めたくて仕方がない鳴瀬は誰に気兼ねすることもなく ”出勤”し続ける。当然、周りの教師や生徒たちからは憤りや不満の声が続出する。鳴瀬にしてみれば ”非常にいい状態”になってきていたのだったが。
生徒や教師・村の人々と過ごすことにより、鳴瀬は少しずつ変わっていく。生徒たちの人を憎むことも疑うことも知らない心、人を愛し、信じ、許すことの出来る心が、鳴瀬に今までの自分の音楽にはないものを見つけさせたのだった。
ではそれを表現する場は、鳴瀬も気に入り村人も残留を熱望するこの村なのか、または、世界の舞台へと続くプロのオーケストラなのか。 鳴瀬が出した答えは…。